相生の昔話

(02)長い話

 話の好きな金持があった。
 「わしが、もーえー、ちゅうまで(いうまで)話をしてくれた人があったら百円やる」
というた。
 誰も、もーえー、といわれるまで話のできる者はなかった。
 一人の男が考えて、また話にいった。
 「百円の金を先に出して、積んどいてくれたったら、あんたがもーえー、というてのまで、話をします」
というた。
 金持はその通り、百円の金を出して、その男の前に積んだ。
 その男が、話をはじめた。
 「よそに池がありました。池のはたに岩がありました。岩の横に樫の木が一本はえて、大(おお)けになって、仰山(ぎょうさん)に実がなりました。
 秋になってその実がうれて落ち出しました。はじめ、ぽろっと一つ技から離れて、下の岩にかちんとあたって、池の中へどぶんと飛びこみました。
 二つ目の実も、ぽろっと枝から離れて、下の岩にかちんとあたって、他の中へどぶんと飛びこみました。
 三つ目の実も、ぽろっと枝から離れて、下の岩にかちんとあたって、池の中へどぶんと飛びこみました。
 これから段々、しげうに実が落ち出して、ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん、どぶん。ぼろっ、かちん、どぶん。…」
 「おい、その話はもうわかった。なんぞほかの話をしてくれ」
 「へえ、この話がすんだらほかの話をしますが、これがまだすみまへん」
 それから一日たちまして、そのあけの日になっても、
 「ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん、どぶん。…」
 「おい、もうわかった。ほかの話にしてくれ」
 「へえ、まだこの話がすみまへんのじゃ」
 それから三日目も、
 「ぽろっ、かちん、どぶん。ぽろっ、かちん。どぶん。…」
 「ええ、もー聞きとうない。もーええ、もーええ」
 「おっと、その百円はこっちゃへもろときます」
というて、男は百円を取った。

注1:「大(おお)けに」は”大きく”という意味、「仰山(ぎょうさん)」は”たくさん”という意味です。
注2:ちょん髷姿は、明治の断髪令以後も見られました。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻