相生の昔話

(01)すし食い阿弥陀如来(あみだにょらい)

 山寺の和尚と、小僧がおった。和尚が内証で、すしをこしらえて戸棚にかくしておき、
「この戸棚をあけてはならんぞ」
といっておいて、外へ出た。
 あとで、小僧がソーツと戸棚をあけてみると、すしがあった。これじゃな、と思うて、一つ取って食うた。あまりうまいので、また一つ食い、また一つ食いするうちに、みんなないようになってしもうた。小僧は考えて、本堂の阿弥陀さんの口のはたに飯粒を少しなすりつけておいて、知らん顔をしていた。
 晩に和尚が帰ってきて、すしを食おうとすると、一つもない。
「小僧、お前知らんか」
というと、
「なんにも私は知りませんが、さっきに本堂のお仏壇の方で、ムシャムシャ音がしよったように思います。阿弥陀はんでも、食うたったんじゃありまへんだあっか」
という。和尚が仏壇をあけてみると、なるほど、阿弥陀如来の口のはたに、すしの飯粒が少しついている。
「おのれ、盗人めが」
というて、阿弥陀如来をひきおろし、鍋へ入れてたくと、クタ、クタ、クタというて煮えたった。
「おのれ、いよいよ食うたな」
というて、裏の生洲(いけす)へ持っていってつけると、また、クタ、クタ、クタという。
「おのれまだ食うたとぬかすか」
というて、生洲のはたの石の上にのせて、ヨーキ(斧)で、力一ぱいはつったら、
「クワーン」
といった。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻