相生の昔話

(11)歌の稽古(けいこ)

 歌の作り方を師匠(ししょう)にたずねた人があった。

 歌というものは、すべて、山を山といわず、月を月といわずして、自然にそのこころがわかるようにいいまわすものじゃ、と教えられた。

 それでは、一つやってみますというて、
 ぢこぶから ほしのおやじが とんででて 火事のたまごを ふきけやしけり

 「一体それは何の事じゃ」

 「へえ、山から月が出てきて、提灯(ちようちん)の火がいらんようになったんで、吹きけやしたちう事だす」

 「なんでまた、そがいなこころになるんじゃ」
 「へえ、ぢこぶとは、地の瘤(こぶ)で、山のことだす。

 山を山というては、歌にならんさかい、地瘤(じこぶ)といいました。

 ほしのおやじとは、お星さんの親で、お月さんのことだす。

 月を月というては歌になりまへん。

 火事の卵ちうのは、こまい火だす。

 提灯(ちょうちん)の火を提灯の火といわんとこが、歌じゃと思うて、こういいました」

注1:「吹きけやしたちう事だす」とは、「吹き消したという事です」の意味です。
注2:「そがいなこころ」とは、「そのようなこころ(心)」という意味です。
注3:「ならんさかい」とは、「ならないので」という意味です。
注4:「なりまへん」とは、「なりません」という意味です。
注5:「卵ちうのは、こまい火だす」とは、「卵というのは、小さい火です」という意味です。つまり、鶏の子が卵なので、火事の子はボヤ(ちいさい火)ということになります。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻