相生の昔話

(08)頭のいくつもある男

 昔むかし、ある村で新年宴会(えんかい)が例によって開かれた。
 酒もよくまわり、にぎやかなことになった。
 ある人が酒の酌(しゃく)をし、つい、大金持の旦那(だんな)さんの着物を汚(よご)し、お断りしたら、旦那はんは、「こんな着物はなんぼでもある。かまわないよ」
といった。
 同じ場で飲んでいた一人の男は、なんでもあのようにほめてもらいたいと思っていた。
 酌をしてさわいでいたが、まぐれ、ついその一人の男の頭にあたった。
「すまなんだ。勘忍してくれ」
といったら、
「こんな頭なんぼでもあるから、気をつかってもらわなくてもよい」
といった。

注1:「旦那」は、妻が夫を、奉公人が主人を、ひいきしてくれる客などを呼ぶときに使います。語源的にはサンスクリット語「ダーナ」の音訳と言われ、「ほどこし」「布施」などの意味がありました。
注2:「まぐれ」は、「たまたま」とか「偶然に」という意味です。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻