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□相生市の文化・歴史

鳴島万葉歌碑
金ヶ崎 あいおい荘前
現地案内板
 「室之浦之湍門之埼有鳴嶋之磯越浪尓所清可聞 孝書」
昭和五八年三月廿日
市教委・文学碑協会建

 鳴島万葉歌碑
 室の浦の湍門の崎なる鳴島の磯越す波に泊れにけるかも(万葉集巻十二 三一六四)
 書は阪大名誉教授犬養孝氏。東方、室津の港から、この岬の突端までを「室の浦」とよんだ。岬に接して眼下に浮かぶのが「鳴島」(現呼称君島)である。そして、この地形のようにせばめられた水路を湍門という。作者は西海を目指す途中、ここに立ち寄ったのであろう。その鳴き島の磯越す波しぶきに、思わず濡れたことよと、前途遥けさを思う。或いはまた、顧みて雲の彼方の大和島根をそれと望み見たのであらうか。作者不詳である。

『相生と文学碑』
犬養孝「室の浦・鳴島」
 この鳴島の歌について、犬養孝『万葉の旅(下)』の「室の浦・鳴島」には、次のように書いています。
 「室の浦は室津港を中心に、藻振鼻から相生湾口の金ヶ崎にかけての湾入を指すものであろう。近世末まで栄えた室津は、今は佗しい漁港に過ぎないが、港を取巻いてみっちりと建て込んだ、本瓦茸・連子格子の二階建の古びて傾いた家並みを見ると、さながら内海港町の博物館の感がある。ここの賀茂明神の森や浄運寺の裏山からは、室の浦は一望の中で、金ヶ崎のはずれには小さな君島、相生湾口の蔓島(通称ゴハンサン)が浮かんでいる。
 『鳴島』は一般に『ナルシマ』と呼ばれるが、『ナキシマ』の訓も古くからあった。『湍門の崎』も『鳴島』も今日どこと決められないが、荒木良雄博士は、金ヶ崎のせど・君島のせどと称する金ヶ崎と君島の間を「湍門」と考え、土地の古老がナキシマともいう、君島を『鳴島』とされる。今日、赤松に覆われた無人の小島の君島周辺を小舟で通ってみると、屈曲した室の浦の全景の中におかれたなきしま″の磯浪の繰返しは、ただ大自然だけの生の姿だけに、舟旅の旅愁も不安も妻恋いの吐息さえも、そこに息づいているようである」。

鳴島(岸島)
 江戸時代から、「鳴島」は「ナキシマ」とか「ナルシマ」と呼ばれていました。
 また、「鳴島」は「屍島」ともいわれていました。それは、室津の遊女が投身し、その屍がこの島に打上げられ、またその髢は相生湾口の鬘島に上がったという伝説によります。往昔、夜間にここを通る漁師は、「遊女の忍び泣くような声を櫓の音に交じって聞いた」という話も伝えられています。
 「ナキシマ」の名は、古代舟行する旅人の悲哀や、伝説の人が哀しび嘆くという意味があります。「ナルシマ」の名は、潮流の速さとか、島自体がオトを発するという意味があります。
 郷土史家の松岡秀夫は、この島に上がり、「頂上を踏むと、中に空洞があるかのようにドンドンと大きく響く音がする」と報告しています。

 「湍門」は「渡り場所」という意味で、海峡の狭く潮流の速い処を指します。また、「金ヶ崎のせど」「君島のせど」という地名とも考えられます。実際、金ヶ崎の突端に下りてその潮流を目のあたりにすれば、この歌は一層味わい深いものとなります。干満の潮に手を入れると、手首の辺りに巻く渦が見えます。
 「室の津」は、室津周辺の広い海上空間をさすもので、奈良時代には室津を中心とする「室津圏」という生活圏が意識されていました。その西限が鳴島(岸島)でした。相生市と揖保郡御津町の境界は、鳴島(岸島)の中央を二分し、金ヶ崎を北上しています。

 漁夫によると、「君島の周囲は水深が特に深く、潮汐の激しい時は島に響き、渦潮を生ずるのでナルシマ″と呼ぶ」と伝えています。

歌の意味
 この鳴島の歌は、相聞歌の内の「羇旅発思」の部分に入っています。西行する宮人が鳴島を過ぎる時、その磯に寄せる波しぶきに濡れて、家郷を思い、妻を慕って涙した歌と想像されます。「の」を繰返す響きは、まるで磯にしくしく寄せる波のリズムを思わせます。

犬養孝
 犬養孝は、明治40(1907)年4月1日、東京で生まれました。 犬養孝は、昭和45(1970)年、大阪大学の教授を退官しました。
 犬養孝は、昭和53(1978)年7月15日、相生夏季講座「万葉のこころ」を担当しました。その後、「万葉の旅」で、度々、万葉の岬を訪れました。
 犬養孝は、昭和62(1987)年11月、文化功労賞を受賞しました。
 犬養孝は、昭和63(1998)年10月3日、亡くなりました。

松岡秀夫
 松岡秀夫は、明治37(1904)年2月、赤穂市有年で生まれました。京都帝国大学医学部卒業後、松岡病院長として、忙しい医療の傍ら考古学・歴史学研究に注力し、有年考古館を設立しました。赤穂市文化財調査委員長。
 松岡秀夫は、昭和60(1985)年8月、亡くなりました。


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出典:『相生と文学碑』

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