相生の昔話

(06)茶・栗・柿・麩(ふ)

 茶と栗と柿と麩とを売りにまわることにした男があった。一日まわったけど、一つも売れなんだというて、戻ってきた。
「どがいいうて、まわったんぞ」
というと、何もいわずにだまってまわったという。
「それは売れんはずじゃ、持っとる物を、みんな大きな声でいわにゃいけん」
と教えられた。
 二日目に、やっぱり売れなんだいうて戻ってきた。
「どがいないいようしたんぞ」
というと、持っている物を、一ぺんにいわにゃわかるまいと思うて、
「チャックリカーキフッ・チャックリカーキフッ」
というてまわったという。
「そがいないいようでは、なおわからん、茶は茶で別々、栗は栗で別々にいわないけん」
と教えられた。
 三日目には朝早くから、大きな声で、
  茶ぁは茶ぁで ベーつべつ
  くーりはくーりで ベーつべつ
  かーきはかーきで ベーつべつ
  ふーは ふーで ベーつべつ
といいながらまわった。

注1:「どがいいうて、まわったんぞ」は”どう言うて、回ったのか”という意味です。
注2:「どがいないいようしたんぞ」は”どのような言い方をしたのか”という意味です。
注3:「そがいないいようでは」は”そのような言い方では”という意味です。
挿絵:立巳理恵
出展:『相生市史』第四巻